天に見えるは、月
そんなショッピングにでも行くような気楽なものならこっちも困ったりはしない。他人事だと思って、と香凛は心の中でぼやいた。
「だって性格はともあれ、あんなイケメンの隣を歩けるんだよ?」
「わたしはその辺りはあんまり興味ないし……」
実夏が「枯れてるわね」と冷たく言い放ったと同時に、食べ物が運ばれてきた。テーブルに並べられたのはこの店の一押しでもあるオムライス。ふわふわしている卵が食欲をそそる。
「ところで、香凛って確か付き合ってる人いたよね?」
「……なに、唐突に」
実夏には勇作のことは話してはいなかったが、付き合っている人がいるということを匂わす程度には話をしていた。
実夏はいったいなにを言い出す気なのか。つい身構えてしまう。
「いや、ただ今どうなのかなーと思って」
「特に、どうってことはないよ」
これ以上深く追及されるのも困るので、さらりと答える。それに今は、あまりよろしくない状況だ。細かく話せば、余計なことをうっかり口走ってしまいかねない。
「いいね、それだけ落ち着いてるんだ」
「まあ、ね」
実夏を見れば、なんとなくなにかを言いたそうにもじもじとしているように見える。
「……もしかして、彼氏でも出来た?」
「うふふふふ」
もうそれ以上言わなくてもわかったよ、というほど実夏はにんまりと満面の笑みを浮かべている。香凛もつられるようにして微笑んだ。
「よかったじゃん! ずっと彼氏欲しいって言ってたもんね」
「んー、まあ。でもまだいろいろあるんだけどね」
実夏はそう言ってから、オムライスを小さく掬って口に入れた。
いろいろ、とはどういうことなのかわからないけど、実夏が幸せそうならそれでいい。
香凛は幸せのおすそ分けをもらった気分だった。