天に見えるは、月



――翌日。
香凛はスマホ片手に大納堂を目指していた。

大納堂本店は自宅からも実家からも遠いため、今まで行く機会はほとんどなく、香凛は場所を曖昧にしか把握していなかった。こういう時スマホの地図アプリは本当に助かる。

昨日あの後、香凛は提案書と共に大納堂の資料にも一通り目を通しておいた。営業の仕事がまだよくわかっていない以上、訪問する企業の基本的な情報ぐらいは頭に入れておかなければ、不安で仕方がない。

モンドは手取り足取り仕事を教えてくれるタイプじゃないことぐらいはよくわかっているけれど、なにかこうしておいたほうがいいとか少しぐらい助言してくれてもいいのに、と香凛は恨めしく思った。


モンドとは大納堂前で待ち合わせしている。
待ち合わせ場所にモンドが先に着いていた、なんてことになったらまずい。

アプリの音声ナビのとおりに早足気味で歩いていくと『DAINADO』の看板が見えてきた。確かここは大正時代に建てられた建造物だと資料で見た気がする。少しレトロな佇まいには重厚感さえ感じる。

正面入り口はどこかと探していれば、一際背の高い男性が視界に入った。

「ウソ……!」

香凛は慌てて走る。


「す、すみません!」

香凛はモンドに頭を下げた。

待ち合わせの時間よりも早く着いたつもりだったのに、これでも生温かったとは。

「……行くぞ」

モンドは怒るでもなく、そう言っただけで香凛の前を歩いていく。いや、もしかしたら怒っているのかもしれない。もっと早く来れないのか、と。

縮こまりながらも香凛はモンドの後を追った。歩幅の違いか、すぐにモンドを見失いそうになる。


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