天に見えるは、月
駆け足気味に必死に追いかけていると、いつの間にか地下食料品売り場、通称“デパ地下”に着いていた。店内にはいろいろな商品が所狭しと並べられている。
コーナーを曲がると、売り場の一角にイギリスの紅茶のトップブランドのひとつ『アドリントン&ベルナップ』の紅茶が綺麗にディスプレイされていた。これも我が社で総代理店を務めている。
「中村さん!」
どこからかモンドを呼ぶ声がしたかと思えば、ひとりの男性が笑顔でこちらに駆け寄ってくる。年の頃は四十代後半といった感じだろうか。
「都村(つむら)さん、いつもお世話になっております」
モンドはその人に向かって深々と頭を下げている。香凛もそれに倣って頭を下げた。どうやらこの人がここの責任者のようだ。
「今日は私の新しいアシスタントを連れてまいりました……橘」
促され、慌てて自分の名刺を出して名刺交換をする。
「た、橘と申します。よろしくお願いします」
「今度は女性のアシスタントの方なんですね。どうぞよろしくお願いします」
女性のアシスタントをめずらしく思っているのか、都村は微笑みながらも香凛を興味深く見ている。香凛はその視線に耐えながら、必死に笑みを作った。
「どうですか、売れ行きは」
「そうですね……あ、鮫島(さめじま)くーん」
モンドの問いかけに、都村は誰かを手招きする。
駆け寄ってきたのは二十代半ばぐらいかと思われるショートカットの女性店員。彼女はモンドを見るなり、はにかんだような顔で挨拶した。
モンドは彼女にさっきと同じことを問いかける。
「動きはどんな感じですか?」
「まだ寒いからミルクティーで飲まれる方が多いのか、先月に引き続きゴールデンアッサムが人気ですね」
彼女は俯き加減で、モンドの顔をチラチラと見ながら答えている。