天に見えるは、月
「なるほど。ミルクティーを飲まれる方ならクイーンズオレもおすすめしてみてください。ゴールデンアッサムよりもミルクティーにした時によりコクが感じられるので、そちらのほうがお好みの方もいらっしゃるかもしれません」
香凛は、モンドの口からサラサラと水の流れのごとく商品の特徴が滑り出てきたことに驚く。
もちろん商品の特徴を知っていなければ売ることは出来ないのだから、そんなことは営業マンとしてごく当たり前のことなのだけど、彼が受け持っている得意先とそのアイテム数を考えると、驚くなというほうが無理だ。
「と、そうは言いましたが、鮫島さんは十分『アドリントン&ベルナップ』についてお詳しいですから、私も全面的にお任せできますよ」
モンドの声がさっきにも増して穏やかに感じる。
香凛は何気なくモンドの顔を見て――心臓が止まるかと思った。
どこの俳優かと思うほどの、極上の笑顔。
モンドがそんな顔するなんて……。
信じられない。
「いえ、そんな……ありがとうございます」
彼女がモンドを見た瞬間はにかんだ理由も、今頬を赤らめている理由もよくわかった。周りを見れば、買い物に来ていた女性客までもがモンドに視線を向けている。
こんな光景はいつものことなのだろうか。
都村はそれを気にする様子もなく、仕事の話を続ける。
「このところ、お客様から『アドリントン&ベルナップ』のクッキーやグッズは置いていないのかという問い合わせが多くなりましてね」
「そう都村さんに言われるかと思いましたので、実は今日その辺のご提案もさせてもらおうかと思っていました」
確かに、モンドが目を通しておけと香凛に見せたものの中には、この社の紅茶以外の商品、ターゲット層、売りのポイントなどがひとつひとつ丁寧に書かれていたものがあった。
客先のニーズを先取りしていたとは。