天に見えるは、月
「……あの、変なことを伺ってもいいですか?」
そのタイミングを待っていたかのように、鮫島は香凛におずおずと問いかけた。
「……なんでしょう」
「あの……中村さんって、ご結婚されているんでしょうか?」
「……へ?」
まさかそんなことを聞かれるとは思わず、声が若干裏返ってしまった。
「あっすみません! お仕事中にこんなこと、本当に……」
「ああ、いえ……」
咄嗟に言葉が浮かばず、当たり障りのない相槌になってしまう。
「今までのアシスタントさんは男性の方ばかりだったので……ちょっと訊きづらくて」
思わず本音が出てしまったようで、鮫島は余計なことを言ってしまったという顔をして、ばつが悪そうに俯いた。
……どうしたものか。
モンドのプライベートなことなど知るはずもない。弓削からも他の社員からもそんな話は一切聞いたことがなかった。
モンドに奥さんがいるのか。
実夏なら興味がありそうな話だけど、そんなこと一度だって考えたことがない。
「アシスタントについてからまだ日が浅いもんで……。それに以前は全く営業とは関係のない部署にいたもので、中村のプライベートなことまでわからないんです」
「そうなんですか……」
鮫島はがくりと肩を落とした。女のわたしならこういう話には聡いだろうと、望みをかけていたのかもしれないと思うと申し訳ない気持ちになる。
「お役に立てなくてごめんなさい……」
「……いえ」
「なにかわかったらお教えしますね」
鮫島の落胆ぶりがあまりにも気の毒になって、香凛はそう付け加えておいた。
彼女は「ありがとうございます」と薄く笑みを浮かべている。
でも、わかったところで鮫島の望む答えになるかはわからない。そんな約束をしてしまってよかったんだろうかと、言ってから香凛は幾分後悔した。