天に見えるは、月
モンドが都村と売り場に戻ってきたのは、香凛が最下段の棚掃除をちょうど終えた時だった。
都村と鮫島に挨拶を終えると、モンドは「行くぞ」と香凛を一瞥しただけでさっさと歩いて行ってしまう。香凛は人の邪魔にならないように気をつけながら、パタパタと小走りにモンドを追いかけた。
ようやく追いついたのは、百貨店を出る寸前。
「あ、あの、中村課長!」
「……なんだ」
香凛の呼びかけに、モンドは怪訝そうな顔で振り返る。
「もう少し、ゆっくり歩いてもらってもいいですか」
毎度この調子で歩かれてはたまらない。それに、こんなふうに店内を走って追いかけるのは、店にも迷惑だし事故の元にもなりかねない。
香凛が意を決してそう言うと、モンドは眉間に深く皺を寄せた。
「なんで俺が橘に合わせなくてはいけないんだ。俺の足の速さじゃなく、自分の足の短さを恨むんだな」
確かにモンドより足は短い。短いのは認める。でもそれは身長の違いもあるわけで、そこだけを言われるのはどうなのよ、と香凛は口に出せない言葉を心の中でぶちまける。
この人の中に気遣いという言葉はないのだろうか。さっき、穏やかな物言いで極上の笑みを浮かべた人物はいったいどこへ行ってしまったのだろう。
「……今からはどうやっても伸ばせないんで、仕方ないじゃないですか」
思いがけず、ふて腐れたような声になった。
鮫島さんにはあんなに穏やかに、優しい笑みを見せたくせに。
多分、そんな不満が上乗せされたせいだ。
モンドは少し俯き気味な香凛をじっと見つめている。
いくらなんでもモンド相手に強気に言い過ぎたか……?
怒鳴られることを覚悟して構えていると、なぜかモンドの仏頂面が緩くほどけた。