天に見えるは、月
「致し方ない状況だ。文句は言うな」
モンドはそのまま香凛の腰をぎゅっと抱くと歩き出す。
「……えっ」
モンドからは仄かに柑橘系の香りがした。それほどまでに今、彼と密着しているのだ。
これが動揺しないわけがない。
「あ、あ、あのっ」
「なんだ」
「自分で、歩けますから」
お酒を飲んだ状態でモンドの歩調に合わせて歩いているからなのか、それとも密着しているからなのか。どちらの理由かははっきりわからないけれど、香凛はドキドキしていた。
落ち着かず、この状況から一刻も早く解放してほしくて懇願する。
「もう本当に離してもらって大丈夫ですから……っ」
「ふらついてる奴をひとりで歩かせられるか」
「あれは、腕を引っ張られたからよろけただけで……」
香凛の言葉に構うことなく、モンドはそのままどんどん歩いていく。
少し歩くと、小さな公園のような場所に行き当たった。遊具などはなかったが、敷地には何か所かにベンチがある。一番近くにあったベンチまで来ると、モンドは香凛を離しベンチの汚れを軽く手で払った。
「座れ」
「わたしは休まなくても大丈夫です。だからもう駅に……」
「いいから座れ」
モンドは香凛を問答無用で座らせると、自分も少し間隔をあけて香凛の右隣に座った。
驚くことばかりで、起きたことを順を追って整理したくても、頭の中は砂に描いた絵が波にさらわれたようにまっさらになってしまっている。
呆然としていると、目の前にさっきのペットボトルが差し出された。