天に見えるは、月
「飲め」
酔ったわけではないと説明したくても、なにをどう言ったらいいのか思い浮かばない。
「……すみません」
香凛は困惑しながらも、ひとまずモンドからそれを受け取った。どうやらコンビニまで買いに行ってくれたらしく、側面にはコンビニのシールが貼られている。
やっぱり信じられない。
キャップを開けようとしたところで、香凛はモンドにまだお礼を言っていなかったことに気がついた。
「……これ、ありがとうございます」
モンドは空を見上げながら「ああ」とだけ答える。
「わざわざコンビニで買ってきてくださったんですね」
「自販機が近くになかったからな」
「わたし、お金払います」
「そんなのはいい」
モンドは胸元からなにかを取り出した。――タバコだ。
「あれ、タバコ吸われるんですか……?」
ほとんど社内にいないということもあるけれど、これまでモンドがタバコを吸っているという話も聞いたことがないし、実際に吸っているところも見たことがなかった。
「嫌か? 橘が嫌なら吸わないが」
「いえ、大丈夫です。ただ課長にタバコを吸うイメージがなかったもので……」
今はタバコを吸えるところも少なくなってきている。総務でも数人、喫煙する人間がいて「肩身が狭いんだよな」とよく愚痴をこぼしていた。自分は吸わないけれど、こういうとこでぐらい吸いたい人には許してあげたい。
「ああ……タバコは仕事が終わった時にしか吸わないからな」
モンドは暗闇の中に紫煙を燻らせる。
火をつける時、少し目を細めた表情に男の色気を感じて、ドキリとした。それほどにずっと見つめてしまっていたのだと気づいて、香凛は慌ててモンドから視線を外す。