天に見えるは、月
「……正直、課長はもう帰ったんだと思ってました。だから、こんなことしてもらえるなんて、なんか……意外で」
焦ったせいか、正直な気持ちをうっかりこぼしてしまい、なおさら焦る。
「意外で悪かったな」
「す、すみません……」
あまり抑揚のない言い方はいつものことだけれど、もしかしてモンドを怒らせてしまったのだろうか。恐る恐る隣を窺ってみると、彼は真正面を見据えたまま煙を吐き出している。
「……俺が部下の心配をしちゃ悪いか」
耳を疑った。
今、なんて……?
ぼそりと呟かれたせいもあって、聞き間違いだったかもしれないと思う。だって、モンドが『心配した』などと言うはずがない。
「――そんなことより」
モンドは話を変えようとしたのか、そう声高に言って体を起こした。
「早く水を飲め。飲まないと酔いも醒めないぞ」
そういえば。
香凛はペットボトルをまだ開けてもいなかったことに気づく。
青いキャップを捻ろうとすると、つるりと指が滑った。
「なんだ、キャップも開けられないのか」
モンドは携帯灰皿にタバコを押し込み、香凛からペットボトルを奪う。香凛がモンドの方を向く前に、カリリ、とキャップの開く音がした。
「あ、すみませ……」
モンドはペットボトルを手にしたまま、怪訝そうな顔で香凛を見つめている。
「そんな調子で、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……」
とは言ったものの、もしかしたら本当に酔ってしまっているのかもしれないと自信がなくなってくる。
モンドはベンチの背もたれに腕を置くと、香凛の方に体を捻った。
瞳を真っ直ぐ向けられて、妙な緊張が走る。