天に見えるは、月
「なんなら、口移ししてやろうか……?」
そう言って、モンドはペットボトルの水を口に含んだ。
「ふぇ……っ?」
変な声が出る。
モンドは口角を上げると、ごくりと水を飲みこんだ。
「……冗談だ」
綺麗に整った顔が香凛の瞳に妖しく映る。今まで見たこともないような妖艶な微笑みに、心臓がドクンドクンと大きな音を立てている。
モンドは無言でペットボトルを香凛の前に差し出した。香凛もそれを無言で受け取る。
「……早く飲め」
もしかしたらそう見せていないだけで、モンドもかなり酔っているのかもしれない。でなければあんな、驚くような冗談を言うはずがない。
モンドはもう元の体勢へと向き直っていた。腕を組み、夜空を見上げている。
ペットボトルに口をつけると、煙草の苦い味がした。
この年になれば、間接キスなんて特別意識するようなものでもないと思うのに――それなのに。
鼓動がますます早くなるのを感じて、香凛はひたすら水を飲むことに集中する。
そうして水がペットボトルの半分ほどになった頃、モンドはそれを見計らったように立ち上がった。
「そろそろ帰るぞ」
「……はい」
恐る恐る立ち上がってみる。ふらつきはないようだ。
「送っていく」
「……へっ?」
「送っていくと言ったんだ」
モンドの顏はいつもの仏頂面だ。どうも冗談ではないらしい。
「だ、大丈夫です、ひとりで電車で帰れますから……」
動揺したせいか、掴もうとした鞄の持ち手を掴み損ねてしまう。
「ほらみろ。そんな状態の人間をひとりにさせられるか」
「いえ、本当に酔っているわけではなくて……」
「ともかく、行くぞ」
そう言って、モンドは香凛の腕を引いて歩き出した。