天に見えるは、月
そういえば今日は午後から天気が崩れると言っていたな、と正面玄関脇の窓ガラスの外に目を向けて――しまった、と心底後悔した。
鼓動が、駆け足に脈打ち始める。
窓の外にいたのは、勇作と実夏。
まだ社外だという油断からか、実夏は勇作の腕に自分の腕を絡ませている。
せっかく経理課で会わずに済んだというのに、こんなところで鉢合わせなんて勘弁してほしい。
早くここから立ち去らなければ。そうは思っても、階段で営業一課のある十二階まで行くのはさすがにきつい。途中の階からエレベーターに乗ればいいのかもしれないけれど、それも面倒だし、もしかしたらそこで鉢合わせてしまうという最悪なこともないとは言い切れない。
肝心のエレベーターはと言えば、稼働している三基とも今はすべて別の階にいた。今からボタンを押しても間に合いそうにない。
正面玄関の表側の自動ドアが開く音がした。香凛は咄嗟にエレベーター脇にある小さな来客用のスペースに身を滑らせた。置かれていた背の高い鉢植えの植物に身を隠しながら、香凛はふたりの様子を目で追いかける。
さすがに、腕は社屋に入る前に外したらしい。受付を過ぎるまでは普通にしていたけれど、エレベーターの前まで来て一瞬、ふたりは甘い視線を交わした。
さっきから胸の奥が嫌な音を刻んでいる。口の中が乾いていくような感じもする。
こんなところで、わたしはいったいなにをやっているのだろう。香凛はそう思いながらも、ふたりから視線を外せずにいた。
「じゃ、俺先に……」
「うん」
聞こえてきた会話から察するに、ふたりは一緒に出かけたのではなく、おそらく各々の仕事を終えてからどこかで待ち合わせをして、ここまで一緒に帰ってきたのだろう。