天に見えるは、月
同じ部署なら、こんなふうに仕事中にいちゃつくことも楽にできるというわけか。
香凛は虚しさと同時に、どこかほっとしたような感情も心の奥底にあることに気がついていた。
多分、自分からは勇作に別れを切り出すことはできない。でも向こうから別れ話をされれば、諦めざるを得ない。
一思いに刺してくれれば、もちろん痛みは伴うけれど楽に死ねるのだ。こんな瀕死の状態で生かされているほうが、何倍もつらい。
そう思ったら、こうしていることがバカバカしくなってきた。
勇作がいなくなったのを見届けてから、香凛はふらりとスペースから顔を出した。
実夏は香凛を見るなり、目を丸くする。
「もしかして、ずっとそこにいたの……?」
「……うん、書類を確認するためにちょっと」
実夏は香凛の言葉を聞いてばつが悪そうに俯く。きっと、勇作の悪い評判を香凛に教えていた自らがそういうことになってしまったから、格好がつかないのだろう。
「実夏の相手って……」
香凛が切り出そうとすると「ちょっときて」と実夏は香凛の腕を引っ張り、階段を下りていく。
「どこ行くの?!」
「いいから」
地下に着いて守衛の前を通り、実夏は地下駐車場の片隅まで香凛を引っ張っていった。
実夏は香凛と向き合うと、諦めに似た笑みを浮かべる。
「……お察しのとおり、だと思うよ」
「和泉さんと……付き合ってたんだ」
喉の奥が拒否して、なかなか“付き合っている”という言葉が出てこなかった。
「どういう男かよくわかっているのになんで、って言いたいんでしょ?」
実夏は気まずそうに苦笑いする。
そんなこと、こっちも言える立場じゃない。