天に見えるは、月
「それは……」
「いいの、自分でもわかってるの。バカだなって思うんだけど、好きになっちゃったんだから仕方がないなって」
少し投げやり気味に言いながらも幸せそうな実夏に、香凛は少しの嫉妬心と羨ましさを感じた。
勇作と付き合うことになった時、自分は誰かにそんな顏を見せていただろうか。
「……バカだとは思わないよ。ただ、意外だなと思って」
実夏は香凛の言葉に肩を竦めた。
「自分でも意外だったよ。今までいろんな噂を聞いてきたし、絶対あり得ないって思ってたんだけど……恋愛って、そう頭で考えているようにいかないところが厄介じゃない?」
「……まあ、ね」
「仕事以外では彼とあまり話さないようにしてたんだけど、経理の新年会の時にうっかり隣になっちゃってさ」
その辺りからだったのか、と香凛は過去と照らし合わせてみる。確かに勇作の態度が冷たくなったのは、今年に入ってからだった気がする。
「で、話してみたら気遣いが細やかだし優しいし、もしかしたらそんなに悪い人でもないのかなってそれで……」
きっと実夏は「もしかしたら結構いい人なのかもね」とかそんな返事を期待して話してくれたのかもしれない。
でも、言えるわけない。
「……そんなの、女を性欲のはけ口としか思っていない男の一番やりそうな餌の撒き方じゃない?」
言いながら、自分の言葉に傷つくなんて、世話がないなと笑いがこみ上げてくる。
実夏はムッとしたのを隠すかように、不自然な笑みを浮かべた。
「それはそうかもしれないけど……」
「傷つくのが目に見えてる」
少なくとも今、実夏の目の前にいるこの人間は傷ついているのだと言ってしまいたい。でも、それは寸でで思いとどまった。