The price of life
「カイン、今日も剣の修行?」
玄関でマリアがカインを見送りながら問いかける。カインは座り、靴を履いている。革製の高そうな靴だ。以前、マリアからプレゼントされたものである。脇には愛用の剣が置かれている。かなり使い古された代物だ。父の形見でもある。
「あぁ、夕飯までには戻るよ」
「あまり遅くならないでね」
「分かってるよ」
「はいこれ。お弁当」
花柄のピンクのハンカチに包まれた、実に可愛らしいお弁当箱を差し出される。弁当箱を包むハンカチは決まってこのピンクの花柄のハンカチだった。マリアのお気に入りのハンカチだ。
「なぁ、マリア」
「どうしたの?カイン」
「弁当をいつも作ってくれるのは本当に嬉しいんだけど、その……このハンカチはどうにかならないか?」
「私は好きよ。そのハンカチ。可愛くて」
「たしかに可愛いとは思うけど、大の男に花柄のピンクのハンカチはないだろ」
「あら、よく似合ってると思うわよ」
「お前なぁ」
マリアは悪戯っぽく、ひまわりのように明るく笑ってみせた。カインはマリアに押し切られ、渋々その"可愛らしい"弁当箱を持って行った。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
マリアはカインの姿が見えなくなるまで手を振っていた。村の人々はそんな仲睦まじい二人の様子を暖かい目で見守っていた。
 カインが村の入り口に差し掛かった時だった。向こう側から友人のダニエルが歩いてくるのが見えた。手には紙袋を持ち、酷く深刻そうな顔で俯いている。
「やぁ、ダニエルじゃないか」
カインがいつもの調子でダニエルに話しかけると、ダニエルはハッとした様子でカインの方へ視線を上げた。
「カインか。今日も剣の修行かい?」
「まぁな。そっちはおばさんの薬を貰いに行ってたのかい?」
「あぁ、最近、母さんの具合が良くなくてな……」
「大丈夫なのか?」
「まぁなんとかするさ。伝手はあるんだ」
そう言うと、ダニエルは少し黙り込んでしまった。何か考え込んでいる。
「ダニエル?」
心配になったカインが思わず声をかける。
「あ、あぁ、なんでもない。ちょっと疲れてしまっただけさ。大丈夫だ」
「ならいいけど……あんまり無理するなよ。帰ったらラム酒で一杯やろうぜ」
「そうだな、楽しみにしてるよ。お前こそ魔物には気をつけろよ。近頃魔物も凶暴化してるって話だからな」
カインは村はずれの森へ、ダニエルは村へとそれぞれ歩き出す。遠くの木々や草花が風で大きく揺れていた。木々の葉や、草花が揺れる音が二人の足音を掻き消した。
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