黄金の覇王と奪われし花嫁
「バラク。お前は優しすぎる。ユアンの気持ちの整理がつくまで待ってやりたいんだろうが、黒蛇は・・ハカ族は待ってはくれないぞ」

バラクは奪われる側の気持ちを嫌という程理解している。ユアンが失ったものに折り合いをつけ、新しい環境を受け入れるには時間が必要だ。

ただ、ユアンを自分のものにしないのは純粋な優しさからではない。


「いや、それだけじゃないんだ。俺の妻になり、子を産むことは軽くない。 覚悟がない者には厳しい道だ」

結局は自分のことしか考えていないのだ。その事実に気がついたバラクは自嘲するように顔を歪めた。

バラクのその顔を見たナジムがはぁーと深い溜息をつく。
そして、諭すように言葉を重ねる。

「だから、覚悟のある女を妻にしろと言ってるんだ。候補は他にいくらでもいるだろうが」

バラクは何も答えない。


「なぜ、ユアンにこだわる?」


ナジムが問うた。

ナジムの言うことは十分理解できる。
逆の立場ならバラクも同じ忠告をしているだろう。

なぜ、自分はユアンを欲するのか・・・


「最初に言った通りだ。 ガイールの血を、才能を受け継ぐ子供が欲しい」

「本当にそれだけか?」

「それだけだ」

疑いの目を向けるナジムに対して、バラクはきっぱりと言い切った。

嘘ではない。
言葉にできる理由はそれだけなのだ。

言葉にできない別の理由・・その存在にバラクはうっすらと気がついていたが、ナジムが納得いくような説明はできないだろう。



◇◇◇

何も聞きたくない。何も知りたくない。

そんな思いとは裏腹に、ユアンの耳には二人の会話の全てが届いてしまった。

ユアンは心がすうっと冷えていくのを感じた。

頭と身体がばらばらになってしまったようで、自分の思うように足を踏み出すこともできなかった。

随分と長い時間、その場に立ち尽くしていたのに寒さすら感じなかった。
< 26 / 56 >

この作品をシェア

pagetop