黄金の覇王と奪われし花嫁
◇◇◇

重い長布に囲われた暗い室の中で、バラクは一人、物思いに耽っていた。

考えなくてはいけないことはたくさんあるのだ。新しく傘下に入った部族の者達の処遇のこと、南方の定住民族との交易のこと。

そして、ハカ族の黒蛇ことネイゼルの攻略方法・・・

ナジムの言う通り、ネイゼルは強敵だ。
弱小だったウラールと違い、ハカ族は元々力のある部族だ。
その基盤の上にネイゼルという才気ある男が立ち、勢力を増している。

ネイゼルは黒蛇の渾名のとおりの男だと聞く。音もなく忍び寄ってきて、気がついた時には喉元に噛みつかれているーーと。

先に仕掛けるべきか、向こうの動きを待つべきか・・・

「ちっ。今日はダメだな」


バラクはグラスに手を伸ばし、その中の蜂蜜色の液体を一気に飲み干した。
甘い香りに似合わず、喉が焼けるほどに強い酒だ。


今日は何を考えても思考がまとまらず、上滑りしていく。
決断の早さが取り柄の自分には、これまで無かったことだ。


理由はわかっている。


ユアンの泣き顔だ。


交易のことを考えていても、ネイゼルのことを考えていても、頭から離れないのだ。

必死に振り払おうとしても、決して消えない。


それどころか、ふと気がつけばバラクは昨夜のことばかり考えているのだ。
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