黄金の覇王と奪われし花嫁
「歴代の族長の中でも、最も恐れ知らずで好戦的・・そう評価されるネイゼルにしては、らしくないなと思いまして」

ロキはネイゼルの隣に腰を下ろすと、自分のグラスに麦酒を注いだ。 酒を好まないネイゼルにはよくわからないが、1日の終わりに酒を飲むのがロキにとっては一番の楽しみなのだそうだ。

「確かに、らしくないかもなぁ」

ネイゼルはクスリと笑みを零した。

命を賭けて必死にバラクをかばうユアンの姿が脳裏に浮かぶ。
馬鹿な娘だと思う。はるか異国のことは知らないが、このアリンナの地では夫だの妻だのは何の意味も持たない。
ほんの一時だけの仮初めの関係だ。

弱い部族に生まれれば、一年の間に何人も夫が変わる。運良く強い男の元に嫁いでも、まるで物のようにあっさりと他の男に下賜されることもある。

一人の男をどんなに想っていようと、決して報われることは無い・・・。


「ユアンを見ていたら、思い出したんだよ。 かつて、同じように馬鹿な女がいたなぁと」

はるか昔の叶わなかった夢を初めて会った娘に託すなど・・・ロキの言う通り、随分とらしくない事をしてしまった。


「私は・・・」

ロキはいつもと変わらない武骨そのものの顔で、まっすぐにネイゼルを見つめた。

「私は、今もこれからも馬鹿な男なので、ずっと待っていますよ。 私のイリアが帰ってくる日を」

低く響くロキの声がネイゼルの、いやイリアの胸をうった。
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