小悪魔な彼にこっそり狙われています
「俺はいつでも本気です。離れるなんてできない、俺には井上さん以上なんていない」
頭上から響く真剣な声に、余計涙がこぼれてしまう。
「だって、転勤って……」
「……あれ、社長の嘘なんです」
ところが、突然のそのひと言に涙もピタッと止まる。
嘘?
社長の、嘘……嘘って……。
涙で濡れたままの顔をガバッと上げると、すぐ目の前にあるその顔は、気まずそうに渋い色を見せる。
その顔から、来栖くんの言葉が事実なのだと察した。
「な、ななななんで!?嘘!?しかも社長が!?どうして!?」
「あの人なりのおせっかいというか……俺が井上さんのこと好きだって気づいたらしくて、『井上ちゃんの気持ちを探るならこうやって動揺させるのが一番』って」
思い出すのは、先日の転勤の話をする桐生社長の深刻そうな顔。
つまりはあれも演技で、私の焦りも悲しみも、全て社長の作戦だったわけで……。
あ……あの男ーーー!!!
腹立たしいような悔しいような、恥ずかしいような、入り混じる様々な感情に、赤くなる顔で来栖くんのワイシャツをぎゅっと握った。