小悪魔な彼にこっそり狙われています



ていうかあの人、彼氏いたんだ。

けど彼氏の前でもいつもみたいにきつい態度してるんだろうな。なんとなく想像がつく。



あの不機嫌さで他の人にあたらないといいけど……。

ところが、そんなことを考え見る俺の目の前の彼女の顔は、予想とは違うものだった。



『っ……』



その瞳から溢れていたのは、大粒の涙。

誰かに聞こえてしまわないように声を押し殺し、拭っても拭ってもこぼれる涙を、何度も何度も手の甲で拭っている。

時折漏れる嗚咽と、それを必死に抑える苦しそうな息だけが、静かな非常階段に響いた。



それは、いつもの彼女とは違う。

他の人と変わらない、普通の女性と同じもの。



その泣き顔に気付いたのは、先ほど彼女が言った『大嫌い』は、相手に対してではなく、素直になれない自分に対してだったんじゃないかということ。


本当は弱くて、強がっていて、それを隠しているだけなのかもしれない。



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