小悪魔な彼にこっそり狙われています
そんな彼女に、その涙を拭いたいと心が揺れる。
今この場に出て、上手い慰めのセリフなんて思い浮かばない。『盗み聞きしていたのか』と、怒りをぶつけられるかもしれない。
けどそれでも、彼女の涙を拭いたい。
そう、階段の陰から出ようとした。……が。
『あーっ!もう!』
彼女はそう叫ぶと、突然自分の両手で頬をパン!と叩く。
そして深呼吸をし、気合を入れ直すと、いつものように凛々しい表情をして非常階段をあとにした。
その切り替えの早さに、俺は唖然とするしかできなかった。
けれど、そこでもまたひとつ気づく。
きっとこれまで、何度もこうして彼女はひとりで乗り越えてきたのだろうということ。
傷ついて、泣いて、悩んで、強がり立ち直り、何事もなかったかのような顔をして。
……そんな彼女のことを、もっと知りたい。
心に近づきたい、涙に触れたい。
そう思ったその日から、今までよりも澪さんの姿が目に入って、意識するようになった。