小悪魔な彼にこっそり狙われています



「あ……」



一瞬にして頭から肩までをビショビショに濡らした来栖くんに、全身からはサーッと血の気の引く音がする。



し、しまった……やってしまったー!!

八つ当たりで蛇口殴って、自分にかかるならまだしも彼にかかるなんて……。



「く、来栖くん!大丈夫!?」

「あー……はい。けど蛇口直ったみたいでよかったですね」

「う、うん。水が出たなら業者は呼ばなくて大丈夫……って!そうじゃなくて!!」



自分がびしょ濡れになったことよりも水道を気にかける彼は、茶色い前髪からポタポタと水を滴らせながらも眉ひとつ動かすことはない。

まだ勢いよく水が出続ける蛇口をキュッと締めると、トイレを出ようと歩き出す。



「じゃあ、俺仕事戻るんで」

「え!?あっ、ちょっと待って……」



そして引き止めようとする私の声が聞こえていないのか、あえて聞いていないのか。無視をしてスタスタとその場を後にした。



「いや、来栖くん……びしょ濡れのままだし」



長い足で颯爽と廊下を歩いていく後ろ姿を男子トイレの中から見つめれば、彼が歩いた場所には足跡のように水滴がたれている。



灰色のスーツは濡れた部分がしっかりと色が変わってしまっているし……せめてハンカチだけでも受け取ってほしかった。

そうポケットを探るものの、そういえばハンカチはバッグの中に入れたままだったことを思い出す。


って、私本当にタイミングが悪い……!!



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