憂鬱な午後にはラブロマンスを

社長の車の中で迫られてキスを許してしまったことを思い出すと、あれは不可抗力なのだからと自分に言い聞かせていた。

俊夫とのキスを思い出すだけで体が少し震えてしまう。
甘く感じたキスだけど、それでも、やはり洋介とのキスとは全く違う。
愛しさも何も感じない。そんなキスをしたとはとても洋介の耳には入れられない。


「珠子?」


微かに震える膝に洋介は珠子の手をギュッと握りしめた。

俊夫に呼び出された珠子に何があったのかを聞きたかった洋介だが、周りを取り囲む女性社員らの姿が目に入ると、握りしめる珠子の指を撫でていた。

珠子は指を撫でられると妙な気分になってしまう。
久しぶりに感じる洋介の重みに体の熱が伝わりそうで心臓の音が少しずつ大きくなっていく。

周りの女性社員らの汚い言葉がちらほら聞こえていたのがピタリと止むと、今度は誰かがやって来たのを感じた珠子は顔を上げて振り返ると、今度はもっと面倒な人物がやって来た。


「珠子、ちょっといいかな?」

「え?」


俊夫の「珠子」発言に辺りは静まり返った。
離れた場所に座っていた社員達まで一斉に静まり返り珠子らの方へと視線を移していた。


「珠子、いいか?」


俊夫が現れると、流石にそれを無視して膝枕など出来ない洋介は体を起こし胡座をかいて座った。


「遠藤君、彼女を借りるよ。」


社長の顔をして言われれば洋介はNOと言えるはずはない。
それは卑怯だと罵りたくなった洋介は無言のまま俊夫を睨み付けた。


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