女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 実は、妊娠した事はまだ桑谷さんには言ってない。売り場の人のみに伝えて、しかも口止めしてあった。

 私は護身術や柔道をやっていたせいかお腹に筋肉が多いらしく、4ヶ月になってもお腹が全然出てこないので、楽勝で周りを誤魔化している。

 出勤は週に3日ほどになり、私の体調もよく、しかも頭痛以外に悪阻らしい悪阻もなかったので、デパ地下であっても普通に過ごせていた。まったく、それはラッキーだった。

 最近遠くからの視線に気付いて振り返ると玉置さんが見ていることが多い。

 何を考えているのか知らないが、噂話の効果かロッカーでの嫌がらせはなくなったので、気が緩んでいたのもあるだろう。

 私は、若干彼女を見くびっていたらしい。

 まだ直接的な証拠はないにせよ、桑谷さんが調べた結果、玉置さんには総務に友達がいて、ロッカーが空かないからとマスターキーを貸したことがある、その時、忙しくて誰も同行していなかった、という情報は仕入れていた。

 彼の中でも玉置が黒、というのはほぼ確実だったのだ。だから彼は玉置さんを見張っている。私はそれに安心していたのもあった。

 だから、危ない目に会うことになったのだ。



 その日私は遅番で出勤して、まだ時間に余裕があったので、店食でお茶でも飲んでいようと例によって北階段を上がっていた。

 相変わらず誰もいない。

 途中でドアが開く音がしたけど、私は気にせずに階段を上っていたのだ。そして、私物鞄を持ち直した時、後ろから声がかかった。


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