女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 そしてまた縁側に戻った。

 雨に濡れてしっとりと輝く庭の緑たちを見詰める。キラキラと水滴をのっけて、歌っているかのように風に揺れていた。

 サアサアと雨の音が廊下にこだまする。

 それを壁にもたれて座り、ただ聞いていた。

 暗い廊下で、雨の音と私。

 そしてお腹の中には彼の子供。

 自分でも判らなかった。どういう反応が出るのか判らなかった。嬉しいのだろうか、悲しいのだろうか、これからの生活が、全部変わる。結婚よりも激しく毎日も私の体も変わっていくんだ。

 判っていて、体を重ねた。だけどいざ現実になってみると、これはこんなにもずっしりと重みをともなって背中に被さるんだ。


 キラキラと光る水滴。

 揺れる葉っぱ。

 霞む町並み。

 新しい命。

 私も、こうやって母を呆然とさせたんだろうか。



 口元に笑みが浮かんだ。

 こうやって、人類は続いていくんだな、なんて壮大なコメントが頭をかすめる。

 私は笑った。

 雨音に消されない声で、笑った。

 体は熱くなり、突然湧き上がったすごい感動で震えだすかと思った。

 私も、母とよばれる存在になるんだ。



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