女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
その後、ついでだから全部終わらせようと思って、家から一番近い産婦人科に行った。
小さな個人経営の産科で、ゆったりとした雰囲気の可愛い病院だった。そこの院長らしい年配の男性の医者は私に機械をあてて映像を見ながら、呟くように言った。
「おおー、おお、おお、あるある、確かに袋はある」
「はい?」
私が首を捻ると、医者は微笑んでこちらを向いた。
「まだ、初期すぎてちゃんとした卵の確認は出来ないんですよ。でも、用意はされている、という状態だね」
「・・・はあ」
「2週間後にまたいらっしゃい。その間にもし出血したりしたら、すぐ来てね。この初期段階で、まあ、流れてしまうことは自然の現象としてたくさんあるから、もしそうなってもガッカリはしないようにね」
・・・そうなのか。まだこの状態では妊娠した、とは認められないのか。それに流れてしまうこともあるのだと判って、驚いた。昨日すんごく激しい性行為をしたけど、やっぱりダメだった?
暇だったらしくついでに色々と話をして下さって、私は笑いながら妊娠についての理解を深めて病院を後にした。
いいお医者さんが近くにあってよかった。私は別に大きな病院や、ブランド病院にこだわらない。こんな、小さくて、あたたかい、町のおじいちゃん先生に赤ちゃんは取り上げていただきたい。
ふんわりとした柔らかい気持ちになって、私は雨の中歩いて家へ帰る。