イジワル同期とスイートライフ
意識してみると改めて有用さに気づいたらしく、花香さんがジャケットの胸ポケットに指を入れながら言う。



「そりゃお前の場合、あれだろ」



久住くんが残念そうに息をつき、彼女の胸元に目をやった。



「凹凸がないから入れやすいんだろ」


 * * *


「指の痕、くっきりついてる…」

「あいつ…別に俺、そこに文句つけたことねえのに、これかよ…」

「文句なんか言ってたら2年ももたなかったと思うよ」



手形のついた無残な左頬を押さえて、久住くんが恨めしげに舌打ちする。

まったく、清々しいほどのデリカシーのなさだった。

食堂の厨房にお願いして、氷水で絞ってもらったハンカチを渡すと、「サンキュ」とふてくされた声で受け取る。



「どうやって席に戻れっつーの、これで」

「少ししたらきっと引くよ。それまで打ち合わせでもしてく?」



会議後だった私は、ちょうどPCを持っている。



「さっきメールくれてたよね」

「あ、そうそう、席次をいじりたくてさ。でも国内とのバランスがあんまり違うと変だろ、先に相談したかったんだ」



対面に座っていた久住くんが、私のPCを見るために隣に移動してきた。

市場別に並べていた当初から、国名順に並べ替えた意図を説明してくれる。



「完全にアルファベット順てのも不自由だから、頭文字でグループを作って、その中で恣意的な配席ができるようにさ」



左頬にハンカチをあてながら、画面を指して話す横顔を見つめた。

やっぱりこの人は、確かに、過去に誰かの相手だったんだな、なんて、今さらなことを考えながら。


花香さんとのやりとりから想像される、彼女といた頃の久住くんは、今より少し、人として成熟していなかった気配がある。

やんちゃで自信家で、忍耐力もそんなになくて、失敗もわりと多い。


いいな花香さん、素直にうらやましい。

私もそんな久住くんを見たかった。

今の久住くんは、もしかしたら私には、完成度が高すぎるかもしれない。

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