イジワル同期とスイートライフ
歯ブラシとか、ボディタオルとか、久住くんの生活の気配が残った部屋で、丸二日間ひとりきりというのは、案外きつい。

誘ってくれたとき、余計なことを考えずに「うん」と言うだけでよかったのだと思うと、なおさらやりきれない。

でも最近は、久住くんと過ごすたび、ずれつつあるなにかを感じずにはいられないので、それを避けることができて、よかったのかも。

今の関係を、どう考えればいいんだろう。


 * * *


週明けには、うまいこと開き直りにも似た気分を手に入れていた。

どれだけ怒られようが、今だけの話だ。

名前も覚えられていないことだし、そこまで立場が悪くなることもない。

せめて企画課の名前を傷つけないよう振る舞うこと。

消極的だとわかってはいても、これが自分の今の最善だ。



「海外の特約店が、日本のマーケティングに興味を持っていることがわかるデータやコメント、事例を集めてもらったんです」

「なるほど、こういうのいいね、気持ちを前向きにしそう」

「せめて日本語でのスピーチだけでも了承していただけたらと」

「まあ、そこが無難なランディングポイントだろうねえ」



時田課長が資料を見ながら、慎重にうなずく。

多忙なだけに時間に正確な本部長に備え、5分前にもまだゆとりがあるという頃、フロアの中にある会議室に向かった。

そこにはもう、永坂課長と久住くんが着席していた。



「よろしくお願いします」



にこりと永坂さんが微笑み、時田さんと話しはじめる。

会話から察するに、このふたりもやっぱり年次が近いようだ。

説明しやすいよう、上座付近に座ろうと、ロの字に組まれた机を回り込む。



「ちょっとごめんね」



久住くんの後ろを通ろうとしたとき、彼がひょいと手を出した。

椅子の横の低い位置で、私のほうに手のひらを向けて。


目が合って、反射的に私も手を出す。

一瞬触れた、温かい手。


席についてからもその感触は消えず、彼の不思議な行動に首をひねった。

なんだろう、励ましが必要そうに見えたんだろうか。

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