イジワル同期とスイートライフ
時間ぴったりに本部長が現れ、私の斜め前の、直角に対する場所に座った。

置いておいた資料に、手を伸ばしもしない。

時田さんが口火を切った。



「お時間いただき恐縮です、さっそくですが、特約店会議について」

「いいよ、だいたいの話は耳に入ってるから。私に外国語を話せって言うんだろ、お断りするよ。海外のお客さんに伝えたいことも特にない」



しん、と室内が静まる。

私は、もう半分終わったのを自覚しながらも、せめてこちらの意図だけでも聞いてもらおうと、資料を開いた。

久住くんに集めてもらったデータたちだ、無駄にしたくない。

さっき触れ合った左手を、ぎゅっと握りしめる。



「すみません、一度ご説明だけでも…」



言いかけて、ふいになにか、引っかかった。


左手の感触。

なにか言いたそうだった、久住くんの目。


頭の中の空間に、パズルのピースがどこからともなく集まってくる。


──そんな話、俺らに回してくれたら、こっちで受けるのに。

──お前がきっかけになってくれたら、俺もなんかいい気分だよ。

──名前くらい呼んでもらえよ。


触れ合った手。

結局、人のことをすごくよく見ているのは、久住くん。


──俺さあ、ちょっと考えてること、あるんだよな。


視界が開けた気がした。

すべてがぴたっと、あるべき場所にはまり、絵が見える。


──提案は、国内企画さんからしていただけますか。


これ…。

正直この瞬間まで、損な役回りを引いたという意識を拭えずにいた。

違う。

これは、久住くんがくれた、チャンスだ。



「…今回、参加者の中で英語圏と呼ばれる地域から来る人は、実は20パーセントもいません」



準備していたのとまったく違うことを私が話しはじめたので、時田さんと幸枝さんが、何事かとこちらを見たのがわかった。



「残りの8割は第二言語として英語をなんとか使い、ビジネスに参加しています。逆に言うと英語圏の人は、そうした外国人の話す妙な英語を聞き慣れているので、下手な英語を気にしません」

「ほお、そうなんだ」



どこかで使える雑学とでも思ってもらえたらしく、本部長が目を丸くして、興味を示してくれた。

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