イジワル同期とスイートライフ
「急な成長をした海外市場は、そのため人材が追いついておらず、日本のような一貫したマーケティングを行えていないのが深刻な悩みだそうです」

「だろうね、一朝一夕にできるもんじゃない」

「お手元の資料でご覧に入れているとおり、日本から学びたいと考えている国は多いんです。累計でこそ海外販売は国内を越えますが、国単体で見れば日本の売上は依然としてトップです」



本部長が口元に手をあててうなずく。



「いい機会だと思うんです、メーカーのお膝元である日本のヘッドクオーターから、全世界に向けて直接発信できる場は、ほかにありません」



飽きっぽくて流行りに弱い日本市場でものを売り続けるのは、簡単じゃない。

それを実現してきたのは国内営業部だ。

海外には、そのノウハウを喉から手が出るほど欲しがっている人たちがいる。


話しながら、これらは全部、久住くんからもらった知識だと気づいた。

初めて一緒に飲んだときから、なにかにつけ彼は、こういう情報を惜しむことなく私に流し込んでくれた。



「シビアな国内市場の最前線で戦っていらした本部長のお声は、海外特約店からしたらこの上なく特別なものです。通訳を使わず、あえてご本人が語る意味がどれほど大きいか」



──本気で思ってみるんだよ。


そうだね、私も本気で思ってみる。

このスピーチは、参加したすべての人に、必ずいい影響を与えるって。


本部長が資料をめくりながら、なにか言おうと口を開き、また閉じた。



「…ご検討いただけますか」

「うーん、いや、そうだな、しかしね」

「社長の海外でのスピーチを、我々海外企画課がサポートさせていただいているのをご存じですか」



突然別の場所から聞こえた声に、本部長が顔を上げた。

くつろいだ様子の久住くんが、机の上で手を組む。



「原稿の作成から、読み上げの練習までお手伝いしています」

「練習って、社長がかね」

「そうです、トップといえど、苦手なものは苦手だとおっしゃって、渡航の前後には我々とスパルタの特訓に励みます」

「そりゃ見てみたい」

「こっそり録画していますので、非公式でご覧に入れますよ」

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