イジワル同期とスイートライフ
思わずといった感じに本部長が吹き出したところに、永坂さんが言い添えた。



「今回の原稿は、この久住に訳させます。法的文書などはまだ勉強が必要ですが、人に語りかける言葉を選ぶ能力は、課内でもピカ一です」

「ほお」

「原案レベルでよいので、お話しされたい骨子を、一度我々にご提示ください。そこからお話合いしながら英文を作っていくのが私たちのスタイルです」

「いつごろまでに?」

「そうですね、できましたら今週中に」



本部長がじっと考え込み、やおら正面を向いて話し出した。



「遠いところから来た方もそうでない方も、ものづくりの国、日本へようこそ」



誰もが虚をつかれ、それからはっとした。

スピーチの原案だ。

みんなより一瞬早く気づいた久住くんがPCを開き、キーを叩きはじめる。



「我々の商品をまともに売りたいなら、我々の文化を学んでいただく必要がある。その覚悟はおありかね──こんなのでもいいのかね」

「いいですよ、訳すときに僕が適当に丸めますんで」



にやりとしてみせる彼を、本部長がじっくりと眺め、やがて不本意そうに顔をしかめて笑った。



「やられた、面白いな」

「当日のスケジュールにも変更が出ますので、追ってご説明いたします」



修正しておいた日程表を渡すと、思い出したように私のほうを見る。



「きみの名前を聞いてなかった」

「企画課の六条です」

「六条さんか、引き続きよろしく頼むよ、また連絡する」



次があるのか、それだけ言うと本部長は、さっさと出ていってしまった。

静まった部屋に、久住くんの打つキーボードの音が響く。



「意訳のセンスを問われそうですねえ」

「お前だって口の悪さじゃ人のこと言えないだろ、適任だよ」



永坂さんに言われ、面白くなさそうに「そっすね」と口をとがらせる。

時田さんと幸枝さんが、席を立って私のところに来た。

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