イジワル同期とスイートライフ
目の前で幸枝さんのご機嫌がみるみる上昇していくのを見て、感心した。

久住くんの、押しと引きの絶妙なコントロールだ。

こんなことまでできるのか。

再びの定例会議の冒頭で、久住くんはまず幸枝さんに、「ちょっと相談乗ってもらっていいですか」と実にうまく例のプレゼン資料の話を持ち出した。

もともと姉御肌の幸枝さんは、そんなふうに出られたら、面倒を見ずにはいられない。


ふたりはああでもないこうでもないと、内容を練っている。

今日の会議は、いい空気で進みそうだ。



「人たらしって言われない?」

「そんなんじゃねーよ」



食堂で昼休憩を過ごす間も幸枝さんと仕事談義を続けていた彼を、会議室への帰り道、冷やかした。

久住くんは苦笑して、廊下の途中にあるベンダーマシンコーナーに立ち寄ると、缶コーヒーをふたつ買い、ひとつを私にくれる。



「別におべっかのために嘘ついたわけでもないしさ」

「どうやって気持ちを切り替えるの」

「本気で思ってみるんだよ、この人と絶対にいい関係になりたいって」



そんな、友達をたくさん作る方法、みたいなピュアなメソッドが彼の口から出たことに驚いた。

察したらしく、コーヒーを持った手で私を指さす。



「バカにしたらダメだぜ、意外とそんなもんなんだと俺は思う」



バカになんてするものか。

海外を飛び回り、新しい取引先を見つけて手を結び、永続的に互いの利益のためにやっていきましょう、って約束を取り交わしてくる人の言葉だ。



「今度、真似してみる」



正直に言うと、久住くんはちょっと驚いた顔をした後、微笑んで。



「素直でよろしい」



と、ほめてくれた。



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