イジワル同期とスイートライフ
さっきまでメッセージを送り合っていながら言う台詞じゃないなと思った。

それでも一応、事実だ。



「だいたい、なんの電話なの、これ」

『変なところで会話切られんの、嫌なんだよ、俺』

「変じゃなかったでしょ、別に」

『嘘つけ、わだかまり残す気満々だったろ』



うっ…鋭い。

なあなあでは終わらなそうなので、仕方なく仕事の手を止める。



「いいよ合コンくらい、好きにして」

『だから、言うなっての、そういうこと』

「どうしてよ」



ああ、結局自分から水を向けてしまった。

どんなに慣れたつもりでも、やっぱり聞きたくない言葉。

それを覚悟して、無意識に胸のあたりに手をやったとき。



『俺が傷つく』



ふてくされたような声が、そう言った。

すぐ耳元で聞こえたその声が、脳内で反響する。



「バ…」



バカじゃないの。

そう言ってやりたかったんだけど、声が続かなかった。

胸に置いた手に、逸る鼓動が響く。


なに言ってるの、この人。

バカなんじゃないの、ほんと。

私たち、便宜上のおつきあいなんだよ、覚えてる?

いい彼氏のふりをしすぎて、役から抜けられなくなっちゃったの?

それとも、今のも"ふり"なの。


急にオフィスの温度が上がったような気がする。

顔が熱くなって、たまらずデスクのお茶を飲んだ。

いつの間にか、会話にだいぶ空白ができていたことに気づいて、「なに言ってるのよ」なんて今さらながら言おうとしたものの、出てきたのはまったく違う言葉だった。

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