イジワル同期とスイートライフ
「なんだ、久住さんいなかったよ」



近くまで来たとき、すれ違った女の子たちの、そんな会話が聞こえた。



「せっかく企画課に用ができたのにね」

「先に電話入れればよかった!」



2、3年下くらいの年次だろう。

明るい色の服を身に着けた、かわいい子ふたり。



「どうせ親切なクール対応されるだけなんだけどね」

「誰と仲いいのかな、飲み会設定してもらおうよ」

「忙しくて、呼んでも来ないって噂だよ」



えーっとじゃれ合いながら去っていく背中を、思わず振り返って見送った。

へえ…。

信頼されているだろうなとは思っていたけれど、ああいう人気もあるんだ。



「すみません、向井さんのお席ってこちらですか」

「あっ、国内の方?」



不在のデスクがあったので、ここかなと思って聞いたら、隣の席の男性がすぐに反応してくれた。



「はい、営業企画の六条といいます」

「向井から聞いてます、ちなみにそこは久住の席、向井はその隣だよ、USBメモリ置いておいたから」



ここ、久住くんの席か。

他のデスク同様、筆記用具などのすぐに手に取るもの以外はなにも出ていない、片づいたデスク。

ペン立て代わりのマグカップは、東京をホームとするサッカーチームのグッズだ。

こんなものを買ったり使ったりするのかと意外な思いでそれを見つつ、向井さんのデスクのUSBメモリを取った。



「ありがとうございました、お手数おかけしました」

「いえいえ」



にこっと気持ちよく微笑んでくれる。

向井さんよりも上の年次のようだから、海外部門が冷遇されていた時代もよく知っている人だろう。

これが逆の立場だとして、国内営業部にいきなりやってきた海外営業部員に、こんなふうに感じよく接することのできる人が、どれだけいるだろうか。

見習うところがたくさんあるなあ、と感銘を受けながら5階へ戻った。

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