人間嫌いの小説家の嘘と本当
全然噛み合っていないのに、進む不思議な会話。
櫻井さんは諦めたように、もう一度短い溜息を吐き窓の外を見上げる。
外は雲ひとつない夏の青空。
天気予報も雨が降るなんて一言も言っていなかった。
けれど私の心は、もやもやと霧が掛かったように晴れない。
本当に、何も起こらなければいいけれど――。
この日一日、何故だか胸騒ぎがして落ち着くことが出来なかった。
そしてこの日から、更に二日が経ち
諦めたのか真幸からの連絡も来ることは無く、彼らからの襲撃も追跡も一切なかった。
この一ヶ月。侑李は私が用意したトレーニングメニューを真面目にこなし、以前とは見違えるように体力がついてきた。
もともと運動センスは高いようで、負けず嫌いの性格も相まってか、一回注意したことは次には直っている。
もちろん彼の本業は小説を書くことだし、締切りや打ち合わせは毎日のようにある。
それに彼の特殊な体に、どこまでが耐えられるのか私には分からないから、櫻井さんに相談しつつ無理が無いように配慮しているつもり。
ただトレーニングした後は筋肉痛だ何だの文句を言うから、毎日のお風呂上がりにマッサージが、私の仕事に追加された。
そんな平穏な毎日が続き、侑李にも私にも心のどこかに、少し油断が出来ていたのだと思う。
真坂、あんな事が起きるだなんて思いもしなかった。