人間嫌いの小説家の嘘と本当
それは私が侑李の言いつけで、ひとり出版社に向かった帰りの時だった。
出版社に出入りするようになって、有栖川さんだけじゃなく社内で仲良くなった人が数人いる。
始めは私生活すべてがミステリアスな侑李に興味を抱いて、私に近づいてきたって言う人が殆どだけれど、今ではいい友達だ。
その人たちと立ち話をしているうちに思ったより時間が過ぎてしまい、ビルの窓に反射する夕陽に目を細めた。
「ヤバい。帰ったら侑李に叱られそう」
帰りにシュークリームを買って来いって言われてたのを、すっかり忘れて長居しすぎてしまった。
有栖川さんや編集者の人達に挨拶をし、足早にビルを出る。
私はスマホを出して時間を確認し、メッセージアプリを立ち上げると、『今から帰ります』と短めに文章を入力して送信。
そしてスマホをバッグにしまうと、急ぎ足でシュークリーム屋へと足を向けた。
「あっついなぁ……もう、半袖の方がいいかも」
陽が傾き始めても、日差しが鋭く突き刺さる。
夏本番にはまだ早いのに、こんなんじゃ先が思いやられるな。
額に浮かんだ汗をハンカチで拭い、丁度来たバスに飛び乗る。