人間嫌いの小説家の嘘と本当

いくつかのバス停を過ぎ、人が出入りしていく。

けれど窓に張り付くように外の様子を見ていたせいで、入ってきた人物に気付かず隣に座って初めて気が付いた。

バスの中は混んでいない。
むしろガラガラで、席はいくつも空いている。
なのに、わざわざ隣に座る人はいないだろう。

あえて気付かないフリをしつつ、窓ガラス越しに見える隣に座った人物の様子を伺う。

雨に濡れていた所為か黒いフードをそのまま被っていて顔の表情などは確認ができない。

緊張のあまりゴクッと生唾を飲み込んだ時、その男が周りに気付かれないように小さく私に囁いた。



「涼花、会いたかったよ」



思わず肩がビクッと揺れる。
ッ、この声は、真幸……なんで――。
耳元で囁かれたくぐもった声に一気に鳥肌が立った。



「そのまま、ゆっくり正面を向いて。変な動きをしたら、周りの人を巻き込んでしまうよ」


< 132 / 323 >

この作品をシェア

pagetop