人間嫌いの小説家の嘘と本当
脇腹に突き当てられた筒状の硬く冷たい物。
それが何かなんて見なくても予想が付く。
何でこんなもの持ってるの?こんなことして何になるって言うの?
叫び出したい言葉を抑えつつ、周りの人に危害が及ばないように、彼の指示に従うことにした。
正面を向いて、改めてバスの中を確認する。
乗客は、私達を含め十人程度。
幸い誰も私たちの様子に気付いてはいないようだ。
普段なら、この暑い季節に真っ黒なフードを被っていれば誰しも不思議がるだろうけど、今は生憎の雨だ。
雨除けにフードを被っていても可笑しくはない。
もし仮に、私たちの様子がおかしいと思っていても、こんなイカレタ男に誰が関わろうとするだろうか。
真幸に言われたからじゃないけど、他人を巻き込みたくは無い。
冷静に行動しなければ――。
「良い子だね、涼花。次の停留所で降りるよ」
私の前に体を倒しブザーを鳴らし、戻り際にそう囁く。
何も言わず大人しく従ったのが気分を良くしたのか、真幸は私の右耳を舌先で舐めた。