人間嫌いの小説家の嘘と本当
ゾワゾワっと全身の毛が逆立つように不快感が駆け巡る。
き、気持ち悪っ――声が出そうになるのを必死に我慢する。
ここで声を上げたら相手の思う壺だ。冷静に、冷静にならなくちゃ。
自分に言い聞かせて、早く停留所に着くように願った。
膝の上に置いた手をギュッと握りしめ目を閉じると、侑李の姿が脳裏に浮かんだ。
なんでこんな時に思い出すかなぁ。
帰ったら「バカ」とか「ボディガードの癖に」とか上から目線で怒られそう。
そう考えた瞬間、ふと肩の力が抜け笑みが零れた。
「俺に会えて嬉しいんだね。お前は俺のものだ、誰にも渡さない」
何かを勘違いしたのか私の頭を片手で引き寄せ自分の胸に押し当てる。
侑李と同じ言葉なのに、この男から聞く言葉は全く心に響かない。
むしろ嫌悪感しか感じない。
それでも今は、この男に従うしかない。
何をされても抵抗しては、相手を刺激するだけ。
暫くして次第にバスの速度が落ち、停車のアナウンスが流れた。
ようやく、この密着した状況から解放される。
「行くよ」