ばくだん凛ちゃん

◎ ハル ◎

10月に入ったけれどまだ私の退院許可は出ない。

凛の事が心配だったけれど案外、透と上手く生活が出来ているようだった。
今までなら私一筋という感じだったから…寂しい。
少しだけ透に嫉妬する。

普段、特に凛のお世話をしていないのに、さっと良いとこ取りをしてしまうんだから。

…なんて、思うのはまだまだ私も子供なのね。



そういえば凛の後期検診を受けさせていない。
入院したのが予防接種が一段落ついた時だったから良かったけれど、後期健診どうしよう。

…って、透がしてくれたらそれで済む話なんだけれど。
透、してくれるかなあ。
…市役所から来た用紙を書類棚に入れたままだわ。

入院した時は凛の事も透の事も家の事もみんな心配だったけれど、今はそうでもない。
私がいなくてもそれなりにどうにかなるという事がわかった。

だからあまり考えずにゆっくり過ごしたつもりなのに。

全然退院する気配がない。

このまま生まれるまで入院…は辛いなあ。

まあ家に帰ったら帰ったで大変だけど。



- コンコンコン -

ドアをノックする音が聞こえる。

「はい」

私は時計をチラッと見ながら応える。

この時間なら多分…。

「どうですか?」

やっぱり黒谷先生。
私とほぼ同じ時期に妊娠している。
お腹が目立ち始めている。

「早く退院したいです」

本音を言うと、黒谷先生はクスッと笑った。

「そうですよね。
凛ちゃんの事も、高石先生の事もありますしね」

「何だかあの二人、それなりに楽しく過ごしているみたいでそれも何だか悔しくて」

「凛ちゃんが我慢しているだけですよ!
赤ちゃんは赤ちゃんなりに我慢していると思います。
ママを心配させないように、頑張って高石先生に合わせているのかも」

思わず笑ってしまった。
黒谷先生も微笑んで

「凛ちゃんはお母さんっ子ですよ。
大丈夫、帰ったらイヤと言うくらいベッタリしますよ」

黒谷先生と話をしていると不安が軽くなる。

「そうそう、夫から預かってきました」

黒谷先生はそう言って可愛らしいラッピングをされたお菓子を差し出した。

「先日、学会に行った時のお土産です。
ラッピングに惹かれて買ったらしいので味は保障しませんって」

「ありがとうございます」

夫婦揃って私の事を心配してくださっている。

「じゃあ、また来ます」

黒谷先生が出ていった後の静寂が淋しかった。
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