ばくだん凛ちゃん
何だか今日は久々によく寝た気がする。

しかも何だか幸せな夢を見た。
透と手を繋いで、どこかの草原を歩いている。
天気は晴れ、風が心地よい。
何を話する訳でもなく、ただ時折、立ち止まって微笑みあう。

ただそれだけ。

でもそんな事が私にとっては幸せな事。



ん?
最近、よく腕にいるあの子はどこ?



…凛、凛は?



「凛!」

私は慌てて起き上がる。
時計を見たら…午前4時。
私…前にこの時計を見たのは午後10時。

どうしよう!
6時間も寝てしまった!!
ベビーベッドを見ると…
凛がいない。

そして自分の胸が異常に痛い。
胸を押さえたらじわりと母乳が滲むのがわかる。

慌てて辺りを見回すと

「ちょっと、何焦ってるの?」

隣から透の声が聞こえる。

ゆっくりと隣を見ると凛を抱っこしている透がいた。

「さっきおむつ替えたところ」

そう言って透は凛を見て微笑んだ。



どうしよう…。
私が見たかった透がここにいる。



「何で泣いてるの?
おっぱいが張って痛いの?」

…時々見せる的外れな言葉。
いつもの透だ。

「早く出さないと大変な事になるよ」

その瞬間。

「痛いー!」

思わず透の背中を叩いた。
透が私の胸を鷲掴みにする。

「凛に飲んでもらうか、自分で出すかしないと。
明日母乳外来に行かないといけなくなるよ」

更に力を入れるからもう、悶絶。

「それとも、僕がした方が良い?」

わざとらしく笑う。

「凛を私に!」

透は笑いながら私に凛を渡した。
即、授乳。

30分くらいでようやく熱っぽさや痛みがなくなってきた。
隣で透はウトウトしながら、私と凛の様子を見ている。
その間、会話という会話もなかった。
けれど、いつもの安心感がそこにはあった。



ただ、私の中では引っ掛かる。
どうして透、凛の1カ月健診を拒否するんだろ。
凛を抱っこして微笑む姿から、凛の事は嫌いじゃないとは思うけど。
あまりにも唐突な発言だったから。

何かあったのかな、病院で。
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