ばくだん凛ちゃん
「…透が自分の子供の1ヶ月健診をしないとか、何か聞いていない?」

神宮寺先生は紙パックのコーヒーを飲むのを止めた。

「俺にしてくれって言ってきましたけど、断りました」

「どうして神宮寺先生なの?」

僕は弁当箱を袋から出して蓋を開けた。

「さあ…」

神宮寺先生、目が泳いでいますよ。

「透の事だから自分の子供は自分で診ると思っていたんだけど」

箸を手に持ち、食べようとした時。

「もし…何か病気を発見したらどうします?とは聞きましたけど」

…やはり、お前かー!

「で、透は?」

「そんな事言われたら診られない。
速人、代わって。
…そう言われました」

僕は箸を置いて神宮寺先生を睨んだ。

「透とハルちゃんが離婚したら神宮寺先生の責任ですよ」

「はい?何で?」

神宮寺先生は飲み干した紙パックを握り潰す。

「この時期、母親もナーバスだけど、父親も今までと環境が変わって大変なの。
普段なら絶対に動じない人でも、今は駄目。
透に爆弾落とすの、止めてくれる?」

「…家で何か?」

「1ヶ月健診の事でケンカ」

僕はため息をついて首を横に振ると桃ちゃんの愛妻弁当を頂く。

「え、そんな事で?」

能天気なヤツだなあ。

「…人の気持ちがわかるまで、乳幼児健診はしない方が身のため、健診を受けに来た親子のためですよ、神宮寺先生」

「透先輩がいる限り、僕には回ってきませんよ」

神宮寺先生は立ち上がって頭を下げると、足早に食堂を後にした。



…おい、君がしっかりしないからいつまで経っても透が忙しいままなんだ。
早く透を追い越せよ。
いつまでも透におんぶさせたままじゃダメだろ。
一応、透は部長なんだぞー!

ああ、小児科、危ない。
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