ばくだん凛ちゃん

◇ 透 ◇

凛の4カ月健診。
思わず他の先生に介入してしまった。

「仕方ないですよ、あれは酷い」

若林先生はそう言って慰めてくれた。
本当は言いたくなかったけれど、自分の妻や子を侮辱されるような事は許せなかった。
そんな感情は持ち合わせていないと自分で思っていたのに。
全然ダメだった。
自分でも止められない感情が自分の中にある事を知った。



「赤ちゃん広場って透、知ってる?」

ペーパーを見て、ああ、4カ月健診の時にもらったものだなってすぐにわかった。

「行くの?」

行くから聞いているんだろうけれど念のために。


「うん、行ってみようかなあって」

思った通りの回答をハルはした。

「凛をそういう場所に連れていくのは良い刺激になるとは思うよ」

ハルにとっても知り合いを増やす良い機会だ。

「ただね、ハル」

僕は冷静にハルを見つめる。
一瞬、ビクッとする。
そんなに萎縮させるつもりはないのにハルはビクビクする。
いい加減、そういうのをなくして欲しいなあ。
…いや、僕が悪いのか。

「もし、僕の職業を聞かれても言わないで」

これは僕にとってもハルにとっても大切な事だ。

「…えっ?」

「そこに集まる人は聞かなくても、スタッフの人が何気に聞く時があるから。
それを聞いたママさん達は自分の子供が病気になったら『凛ちゃんのパパに聞いて!』とかハルに言うから」

周りの先輩小児科医から時々聞く、そういう事。
僕はまっぴらごめんだ。

「僕はそんな風に言われても答えない。
実際に目の前で診ないとわからないから」

ハル、そんなに困った顔をしないでよ。
これは僕達家族、自分が自分を守る術なんだよ。

「僕の事を聞かれたら医療関係とでも答えておいて。
そう言えば嘘じゃないから」

僕は嘘は言っていないと思うよ。
ハルは納得したような、してないような顔をしているけれど。
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