結婚ラプソディ
「遅くなりました」

案内された個室に入ると、奥に透の奥様、ハルさんが。その向かいにナツ。
透はハルさんの隣。

という事は俺は透の向かいであり、ナツの隣。

透の冷ややかな目が俺を捉えている。

「お疲れ様」

お前の声が夏なのに凍っておる。

「どうも」

透に返事をした俺はハルさんを見て頭を下げる。
ハルさんも慌てて頭を下げた。
俺、ナツとは目を合わせない。

凄く不自然。



「…さて。
じっくりと話を聞こうか、哲人」

「…何の話だ、透」

その瞬間、透の頬に人指し指が突き刺さった。

「いきなりそれはダメ」

ハルさんは透の頬を軽くつまんだ。

「水間さん、まずはお飲み物を…」

ハルさんの笑顔は女神様だー!

「いきなりやりすぎよ、透」

ハルさんの上目使いが透をしっかりと捉える。
それから俺を見た。

「昨日、ナツから少しだけお話をお聞きしました。
私はナツが良いと思っているなら水間さんで全く問題はないと思います」

そう言って微笑んだ。



「ハル、問題はあるよ」

それに納得がいかない透はため息をつきながらハルさんを見つめた。

「在学中はマズイよ、さすがに」

透は俺とナツの両者を交互に見つめた。

「哲人は一応准教授だよ?
教え子に手を出して、自分の立場、弁えてる?」

透、お前の中では俺は悪者だな。

「そりゃ、自分が一番わかってるよ」

今は日下教授一人しか気付いていない。
でもバレたら。
周りの目は痛いだろうな…。
信頼も何もなくなってしまうかも。

「まあ、バレたら俺、大学辞めるわ」

これは本心。
研究で大学に残ったら准教授にまでなったけど、大学病院で診察もしているから臨床はそれなりにこなしている。

いざとなれば別の病院に行けば良い。

「お前のその軽さが周りを不安にさせる。
それなりの立場で辞めてどうすんの?
そんな考えだったらなっちゃんは幸せに出来ない」

透の目が俺を殺しそうなくらい、鋭い。

「…それは最後の選択肢だ。
そもそも俺は付き合おうと思った時点で隠し通す、と決めている」

俺はナツの方に向いた。
ナツもそれに気が付いて俺を見つめる。

「…日下教授の前で何か言った?」

ナツはしばらく首を傾げて考える。

「あ…」

やっぱりそうか。
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