結婚ラプソディ
「これから10日間…一緒かあ」

夕食を食べながらハルは本当に幸せそうな顔をする。
そんな顔をされたら…今の病院を辞めたくなる。
多分、あの病院にいたら今後こんなに長い休暇は取れないだろう。

「ハルは何したいの?」

こういう時しかハルの願いを叶えられないかもしれない。
僕はじっとハルの目を見つめた。

「…何も思い浮かばない」

ハルの目が残念、といった表情を浮かべている。

そりゃそうだ。
今まで、2人でこんなに長い時間を過ごした事がない。
せいぜい3日だ。
しかもあの時はプチ旅行で日程キツキツで。
ハルもつわりが酷い時だったし。

いや、今でもつわりは多少、続いている。
何か食べたら3回に1回は嘔吐する。
変わられるものなら変わってあげたい。
だってハルは。
僕を見るといくら苦しくても微笑んでいる。
そんな無理をしなくてもいいよって言ってもハルは首を横に振るだけ。

そんな事をされると、僕は胸が苦しくなるんだよ、ハル。



「ハル、後は片付けておくから」

食事が終わると僕は椅子から立ち上がり、食器を洗い場へ運ぶ。

「いいよ、透。今日も忙しかったでしょ?」

ハルが慌てて立とうとするので僕はその肩を押さえて椅子に座らせた。

「いいから。ハルは少しでもゆっくりしないと」

僕はそのままハルの背中を抱きしめた。
ハルの体温が僕の腕に伝わってくる。

「ハル、大好きだよ」

ギュッと抱きしめて、僕は離れた。
とにかく、ゆっくりしてよね。

もし。

ここでハルが倒れて式、披露宴が出来ないとなると。
僕、親戚中、病院中の関係者から抹殺されてしまうよ。



ここまで来て、それだけは勘弁してほしい。

僕は洗い物をしながらチラッとハルを見る。
ハルも心配そうにこちらを見ている。

「ハル、僕は何年、一人暮らしをしてきたと思っているの?
高校卒業してからハルと一緒に暮らし始めるまでの一人暮らしのキャリアがあるんだ。
ハルの小さい頃からの家事のキャリアよりは少ないけど、僕自身の医師のキャリアよりも長いから。
そんなに心配する事じゃないよ」

そう言うとハルはクスクスと笑ってダイニングテーブルから立ち上がってソファーに向かって歩いた。
そこに座るとやはり、体が辛かったのか横になった。

ほらね。

家にいる間は出来る限りの家事をしよう。
ハルと一緒に住むまでは全て自分でしていたし、何も問題はない。

「透」

洗い物もあと少し、という所でハルは僕を呼ぶ。

「はい」

「透と一緒にしたいこと、思いついた」

ハルはニコニコして僕を見る。

「出来る限り、透が横にいてくれるだけで、それだけでいいかも」

そんなに目を輝かせて言われたら…。
襲いますよ?
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