結婚ラプソディ
「ありがとう」

洗い物が終わると、横になっているハルの隣に座る。

あまり顔色が良くない。

「どういたしまして」

僕はハルの髪の毛を撫でた。
正真正銘の直毛でツヤツヤ。
ついつい、触ってしまう。

「やっぱり体調、良くないね」

そう言うと、ハルの表情が曇る。

「…式の日にこんな風になったらどうしよう」

ハルも不安そう。

「出せても気休め程度の吐き気止めだしね…」

今のハルにそんなものが到底効くとは思えない。
飲んでも無駄だな…。

「…ごめん」

ハルが立ち上がろうとする。

僕はハルの手を握り、座らせ、ゴミ箱を差し出す。
そして背中を擦った。

調子よく、食べてるかなって思ってもすぐにこれ。

お腹の子はハルの体にとっては相当な異物なのだろう。
そういうつわりは何故、起こるのかという話題の中で聞いたことがある。

「ごめんね…」

ハルの目には涙が溜まっている。

「大丈夫。
嘔吐なら嫌というくらい見てるから」

今まで診察中に何度、吐かれているかわからないよ…

ハルはまだ前触れがあるからわかりやすい。

赤ちゃんや幼児なんて…。

口を開けた瞬間に吐いてるからね。

あれはいかに避けるか…、反射神経の問題だな。



数分後、ハルはようやく落ち着いた。

「ありがとう、透」

僕はそっとハルを抱きしめた。



やっぱり、この時期には無理があったか…



「ハル、やっぱり式、止めようか」

思わず呟いてしまった。
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