結婚ラプソディ
「はい」

透が俺に差し出した用紙を恐る恐る見る。

「ああ」

思わず口に出してしまう。

「…何なの?」

透の眉間にシワがよる。

「では。
紺野総合病院、産婦人科江坂さんのご質問」

俺はホッとした。
マトモなものがきた。

「お二人はもう一緒に暮らしておられますが、お互い一緒に暮らして良い点と悪い点を教えてください」

あー、良かった。

マトモで。

紺野総合にもまともな医師がいるんだ。

「では透からどうぞ」

透ももっと悪意のある質問が来ると思っていたのか、少しホッとしている様子だ。

「良い点は…。
家に帰れば待っていてくれる人がいること、です」

その瞬間、冷やかしの声が上がる。

「悪い点はお互い気を使う事です。
今まで他人だった人間が家族になるんですから。
それは仕方がない事ですよね」

透は丁寧に答えた。

お前らしい。

多少の冷やかしになど全く動じる事がないな。

…速人の質問には無理だろうけど。

「ハルさんは?」

俺は少し顔色が悪いハルさんに話を振った。

うーん…大丈夫かなあ。

「そうですね…。
良い点は毎日飽きない事ですね」

へえ、面白い事を言う。

「例えば?」

「今までなら毎日仕事に行って、帰ってきて、ご飯食べてって同じような日々でしたけど、一緒に暮らすようになってからは毎日違うパターンなんです。
決まった時間にあれこれする、というのがなくなって…あれ、これって不規則なんですかね?」

…奥さん、天然?

あちらこちらから笑いが漏れる。

「毎日一人で食事するのが当たり前だったのに、妹と一緒に暮らしていた時のように家族で食事が出来るのは幸せですね」

そう微笑むハルさんは透を見つめる。
透もハルさんを見つめて微笑む。



…きっとこの二人はあの世にいる時から結ばれる運命なんだろうね。

見ていてこんなに心が穏やかになるカップルなんてそうそういない。
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