結婚ラプソディ
「奥さんは、怒らなかったですか?」

僕、思わずフリーズ。

「あ、透。
お前、ハルさんに何か言われたな」

哲人はクスクス笑っている。

「…もう、いいだろ?」

そう言って逃げようと思ったけれど、兄さんが

「何言われたんだ、透?」

語尾が…喜んだ音になっていますよ、兄さん。

「俺も聞きたいー!!」

祥太郎君までも。

「…はあ」

思わず出た、ため息。

僕はスッ、と顔を上げた。

「ハルは少し怒りながら『避妊は?』って聞いてきたよ」

「「「「で?」」」」

皆の声が重なってる…

「僕、ずいぶん前から彼女もいなかったし、ずっと家と病院の往復でしかないから必要なかったし」

何でこんな事を言わねばならんのか。
顔を下に向けた。
皆の顔を見ながら言えるような事ではない。

「だからそのまま」

「小児科医として失格だー!!」

哲人の平手が僕の額に入った。

「お前には絶対に性教育は無理だな。
中学とかに講演で呼ばれても、私生活でそれをやらかしたら皆が納得いかん」

哲人は職業柄、そういう機会があるかもしれないけど。

「僕はそういう事はまずないと思うよ。
あっても乳幼児の病気に関する講演だよ」

僕は恥ずかしすぎてそのままテーブルに伏した。

「あははは!!先生、可愛いなあー!!」

祥太郎君、随分と楽しそうだな。

「…透先輩、まさか今でもそのままとか?」

速人が珍しく心配そうな声を上げる。

「まさか。
流産されたら困るのでちゃんとしている」

僕は顔を上げて、しまった!と思った。
今の性生活を暴露したようなものだ。

4人とも、今にも吹き出しそうな顔をしている。

「…もういいですか?
本当に勘弁してください」

もう一度、テーブルに伏せた。

「いやいや、ありがとうございました!
久々に透先輩が本当に弱っているところを見ました!!」

その瞬間、僕は顔を上げると速人の腕をガシッと掴んだ。

「コラ、速人。
いい加減にしろよ。
いつまでも調子に乗っていると本当に明日、地獄の当直をする羽目になるぞ」

僕は速人の前にグラスを数個並べてなみなみと注いでやった。

「お前、先輩の注いだ酒を飲めないって言うんじゃないだろうな」

「…飲みますよ。
飲まないと、病棟で仕返しされそうだし」

「そんなバカなことはしない。
病院での接し方とここでの接し方はちゃんと一線を引いている。
ちなみに言っておくが。
これはパワハラでも何でもないぞ。
僕と速人の個人的な関係での話だ」

哲人はそれを見て

「いやあ、なんだか懐かしい、こういう光景」

手を叩いて喜んでいた。



大学の時はね。
よくこんな事をしていたよ、ホント。
馬鹿みたいに酒飲んで遊んでた。

…多分、今度こういう風に集まって飲むのは。
哲人の結婚式の時、だろうね。
速人は当分無理だろうしね。



「…透、我が弟ながら怖いよ。
お前ってそういうキャラだった?」

僕は首を横に振った。

「兄さん、僕がこんな風になるのはこの2人の前だけだよ。
特に速人は、ちゃんと管理しないと調子に乗って暴走するから。
先輩という存在がどれほど怖いか、教えないとね」

ようやく1杯目を空けた速人のグラスに再び注いでやった。

とりあえず、今日の仕返しだ。
明日は…根性見せて頑張れ。
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