結婚ラプソディ
「お世話になりました」

朝、水間さんは早い目の飛行機で帰ることになっていた。
透が空港まで送っていく。

「ナツ、明日しっかりと病院見学をしておいで。
また、帰ってきたら話を聞かせてよ」

玄関先で水間さんはナツにそう言って、家を出た。
先に帰る水間さんを名残惜しそうに見つめるナツ。
本当は一緒に帰りたかったはずなんだけどね。

「お姉ちゃん」

ナツは少しだけ目に涙を浮かべていた。
恋する女の子だわ。

「お兄ちゃんが帰って来るまで、暑いけど少し散歩したいな」

今日もよく晴れた夏の日。
暑いけれど日傘を差して散歩にでも行こう。

…あ、そういえば。

「ナツ、明日誕生日じゃないの?」

ふと思い出した。
ここ数年、離れているから忘れるところだった。

「うん」

「おめでとう、ナツ!
今日、ナツが食べたいものを私、作るわ」

一緒に住んでいた時は毎年、手作りで食べたいものを作っていた。

「えっ、いいの?」

「うん、もちろん。それで良ければ。」

「やったー!!」

それほど裕福ではなかったからどこかに外食、というわけにはいかず。
いつも家でささやかなお祝いをしていた。

「嬉しい、ありがとう!」

ナツのその笑顔がとても眩しかった。

「じゃあ、散歩のついでに買い物、一緒に行ってね。
このマンションの近くにおいしいケーキ屋さんがあるからそこでケーキを買おう」

ナツは何度も頷いた。

透にも連絡しておこう。
きっと彼ならナツに役立つプレゼントを用意してくれるだろう。

私はスマホを取り出し、メッセージを送った。
< 85 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop