結婚ラプソディ
「せっかく二人でゆっくり過ごせる最後の日なのにごめんなさい」

散歩しながらナツはそんな事を言うので

「そんなに気を遣わなくてもいいわよ」

と返した。

きっと、この方がいい。
今、自分の思っている事をすべて叶えてしまうともう次はないと思うから。

またいつか。

透とゆっくり過ごしたい。
その時は子供も生まれていて…3人かな。
…4人で、かもしれないけれど。
叶うかどうかわからない夢だけれども、夢はずっとこの胸に抱いていたい。



「あ、お兄ちゃん!」

マンションの前まで来ると、ちょうど透も帰ってきていた。

「ああ、持つよ」

そう言ってナツが持っていた買物袋を手に取った透。

「お兄ちゃん、本当にごめんね」

ナツは透の隣を歩く。
もう一度、透に謝るつもりだ。
私は後ろからそれを聞く。

「お姉ちゃんと二人でゆっくり過ごせる最後の日、私がいて…」

「何言ってるの」

透はナツの言葉をぶった切る。

「僕はなっちゃんを自分の妹だと思っている。
だから迷惑でも何でもないよ」

透の微笑む横顔が見えた瞬間、私はホッとした。

私はナツと血が繋がっているから別に良いけれど。

透とナツは赤の他人。

透と私が夫婦でも価値観が同じかといえばそうでもない。

だから…少しだけ心配してた。



「ハル」

後ろからゆっくり歩く私を透は振り返って呼ぶ。

「大丈夫?
体、辛くない?」

私は微笑んで首を横に振った。

「大丈夫、ありがとう」



この人と結婚出来て、本当に良かった。
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