夕月に笑むジョリー・ロジャー
「さあ、どうぞ」

示された方へ身体ごと向けば、奥の壁に一枚の鏡が張り付いていて。
私の身長よりも大分高い位置まである程に大きなそれへ、ぼんやりと何かが映り込む。
判然としていないけど、多分、そこが行き先ってことなんだろう。

彼女が言うに、私が試験を受ける場所で、合格すれば、生きることが許される場所。
一年か、それ以上か……私が過ごすことになる世界だ。

見据え続けていたとしても、詳しい説明が続く気配は全くなくて、促されたまま歩き出した瞬間だ。
女性が不意に「ああ、そうそう」と思い出したように切り出した。

「最後に見ておく? 自分の家族。丁度今、葬式の真っ最中だと思うけど」

思いがけない提案に、思わず、歩みを止めてしまった。

自分の葬式というものを、見てみたいと思ったことのある人間は、果たしてどれぐらいいるのだろう。
答えは私には分からない。
言えるのは、私はそう考えたことがある側だという事実だ。

皆どんな反応をしているだろう。
同じグループだった子は、家族は、両親は──。

だけど浮かんでくる景色があって、私は振り返ることをしない。

「……………………いえ、」

その場に佇んだまま、私は緩く首を左右に振った。
それ以外に、私にどんな選択肢があっただろう。

「大丈夫です……見なくても、別に……」

「ふうん? そう」

変わってるわね。
そんな呟きが聞こえたような気がしたけれど、私の心は動かなかった。

想像だ。
そう分かっているけれど、何となく、その想像は実際とそう変わらないような気がした。

そして答え合わせをする気も、私にはない。
当たっていても喜ぶようなことでもないし……外れていたら、それこそどんな風に受け止めるべきか、皆目見当もつかないから。

再び歩き始めようとした私は、ふと肝心なことを聞いていないことに気付いた。

「……試験の内容は、何ですか……?」

「貴女の価値を示すことよ」

何でもないことだとでも言うように、酷く軽い調子で答えが返される。


「わざわざ神であるこの私が復活させてあげるんだもの。それだけの手間をかける程の存在だって、自分自身で私に証明してみせなさい」


無理難題だと、そう感じたのは、私の勘違いとか、被害妄想じゃないだろう。

神様相手に、たかが人間、それも特別な部分なんて何一つ持っていないような小娘が、たった一人で何を証明できるだろうか。
はっきり言って自信なんてこれっぽっちも沸いてこない。
だけど、そんな弱音を吐き出したところで、変わらないのが現実で。

「簡単なことでしょう?」

挑発するように──そう表現したくなるような調子で紡がれはしたけれど、私はそれに文句を言える立場じゃなかった。

受け入れるだけだ。
どんな指示でも、未来でも……運命でも、全部。
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